旅にグレイハウンド

西海岸をグレイハウンドで行く

2024.4.2 東京〜新潟

 

 

東京の、友達の家で目覚めた朝。床に用意してもらったお布団に添い寝の友達と、ベッドの上に家主。川の字というものには、大人になってから抵抗なく参加できるようになった(今回は標高差あるが)。

本当は添い寝のほうの友達の、出勤に合わせて少し早起きして、朝ごはんを食べるつもりだったのだが、撃沈。私だって昨夜しこたま飲んだのだ。1軒目で瓶ビールとジョッキのビール、2軒目でも3軒目でも生ビール……ここ数年でつくづくビール党の色を濃くしたと思う。

それで、家主のほうに合わせて起きて、お昼ご飯をご馳走になった。

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東京にて初めて食べた、五島列島のおうどん。細くておそうめんみたいで、お醤油を入れた生卵にくぐらせて食べる。揚げたての天ぷらつき。贅沢をさせてもらった。

おうどんを啜りながら、軽く二日酔いのゆっくりしたテンションで、友達と話した。「コンテンツの低レベル化を促進するのは消費者だ」という話題。推し活というものがマジョリティになった世の中で、”推し”の関わるもの(映画、ドラマ、舞台……)は無条件に一定数の利益を出すことができる。人々が内容の如何に関わらず推しの出るものを支持(つまりお金を出す)すると、当然ながら「何をするか」ではなく「誰がするか」で作品の価値が決まってしまう。内容ではなくキャストにお金をかけた方が儲かる。必然的に作品自体の質は落ちる。という話。一般的にいわれる”推し活”という形でのみ作品に関わる人の層が、創作作品すべてのクオリティを下げているのではないか、というそれは話題だった。

つまり「アイドルが出ている作品=おもしろくない」ではなく、「アイドルを出す=一定以上の利益が保証される=おもしろくなくてもいい」が成立し得るということだ。

とかの話をしてお腹いっぱいになって、セブンイレブンでビタミン補給をした。

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気になってたスムージー、機械でつくるところを見られて楽しかった。

そのあと、友達は駅まで送ってくれた。荻窪の駅にはブックオフやパチンコ、あらゆる外食チェーンがあり、立派なひとつの街だった。東京というビッグシティには、荻窪とかの小さな都会の街がたくさんあって、ひとつひとつの街がぎゅっと集まって構成されているから、こんなにでかいんやなと思った。

ロサンゼルスもニューヨークも、ダウンタウンと呼ばれる街があり、そのダウンタウンがめっちゃ大きいなという印象だった。この駅で降りても、このバス停で降りても、歩いても歩いてもダウンタウン。でも東京は、街としての機能を一駅ずつ果たしている感じがする。娯楽も食堂も日用品売り場も、ぜんぶ手の届くところにあるコンパクトなコンビニエンス。狭いって悪いことばかりじゃないな〜。

 

さて、友達とまた会う約束をし(そんなものなくても会えるのに毎回する約束は愛おしい)、人が満載の電車に乗り込んで見慣れた新宿バスタ。急いで向かうバスの乗り口。

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新潟交通の、元気なNににっこり。

私はだんぜん3列シート派なのだが、ゆったりしているはずのバスは満員。東京-新潟間はそんなに人気なのか。みんな、これから新潟に行くのかなあ、帰るのかなあ。

細い通路を挟んで隣のおじさんが、イヤホンから音漏れさせてTikTokらしきものを延々と見ていた。見ている隙間に絶えず大きなため息をつく。私は乗っている間じゅう、「TikTokに 見てて息の詰まるものがあってたまるか!!」とキレていた。もっともストレスなく享受できる娯楽ちゃうんかい。想像力も読解力もなにも要らない映像媒体なんやからさあ。言い過ぎか。

途中でお客さんをさらに乗せた池袋。SEIBU池袋てよく聞く気がする。輪になった銅像が「東京の池袋にある」という理由でなんか怖く見えた。

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池袋ってカラーギャングナンジャタウンのイメージしかない。実際に訪れたことはない。

窪塚洋介のドラマ「池袋ウェストゲストパーク」は観たことないけど、なんか観るタイミング逃した感が否めない。土谷アンナの「下妻物語」的な、吉高由里子の「蛇にピアス」的な。これらは観たけど、20歳とかで観てなかったら今観る気起きひんもん。

ドラマでいうと「野ブタをプロデュース」とか「花より男子」とか、2000年代のドンピシャドラマをことごとくみてきていないが、今からは到底みようとは思えない。

ライフステージの問題なんだろうか。平成の作品はあまりに自分の身の丈に近く、そして時代的にまだそんなに昔じゃないから切り離せない恥ずかしさがあるのか。平成初期の映像作品って、なんかちょっとむずがゆくない? 思い出のなかくらいの距離感がちょうどいいような、現在まで引き寄せたくないような。え、みんなどうなんやろう。

 

トイレのないバスなので、5時間程度の旅程のなか、3回もサービスエリアに停まってくれた。サービスエリア大好きなので嬉しかった。

1回目は埼玉。

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なんか甘いものを買った。埼玉って「彩の国」なんや。調べると読み方は「さいのくに」。いろどり豊かなで多彩な国である埼玉を表しているらしい……そうか〜。

乗っているうちに、景色に雪が混じり、びびる。

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大阪のテンションでいるから、薄手のロンTに薄手のパーカーしか着てない。

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山々の標高高すぎる。こんなん見たことないもん。

 

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越後川口SAで、面白そうな看板。これは行くやろ。

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すごくぐねぐねした信濃川の、ぐねの部分に集落があって、社会の授業の教科書を思い出した。水量が上がったらひやひやするだろうなあ。

関東らへんって、よく戦国武将が治水した話出てきーひん? 農業には大量の水がいるし、川、ひいては水害とは切っては切れない関係なんだろうなあ。高校、世界史専攻やから知らんけど。

寒いからはやばや引き上げたバスの席から、見た隣のトラックに

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「キャップヨシ!」て書いてて笑っちゃった。

 

最近はまっている野球を、野球速報というアプリとRADIKOの二段構えで見守りながら着いた新潟駅。外はもう真っ暗。映える緑色のNIIGATAの文字。

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こういうのは世界のどの都市にもあるけど、ちゃんと記念撮影していろいろ見比べたら楽しそう。

こういっては失礼なのかもしれないけど、初めて来た新潟は思ったより都会。いやだって地理的にさ!孤立してる感じがあるから。

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JRの駅は絶賛工事中で、順次オープンさせているらしい駅ビル「CoCoLo」は綺麗で無印良品とかも入っていてすごかった。ふつうにめっちゃでかかった。

 

駅の反対側、ちょっと暗いところにあるのがアートホテル新潟駅

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アゴダという海外サイトで予約をした。いちばん安いからだ。すると、「禁煙シングル」で申し込んだはずが「喫煙シングル(禁煙リクエスト)」で予約していたらしい。予約した部屋のタイトルは「禁煙シングル」だったので寝耳に水だった。きけば禁煙のお部屋は満室らしい。

ホテルで働いていたので知っている。これは融通とかの問題ではない、たしかに何度も「No Smoking」の文字は確認したが、こういうことはアゴダから予約すると起こるのだ。安いには安いなりの理由がある。

「わかりました」と言って、受付の前の椅子に座り、予約をキャンセルできないかダメ元でアゴダに連絡してみる。受付から「あのお客さんどうしたの?」「今日は禁煙マイナス1してるからねえ」という内輪のやりとりが聞こえてくる。いたたまれないけど仕方ない。ここに泊まれないなら他を見つけてから外に出ないと路頭に迷う。それにしてもカウンター内の会話って意外に聞こえているものなのだな、とひやっとする。今まで自分がした客の噂のあれこれにも思いを馳せた。

と、「あの部屋はドアが……」「ちゃんと説明できるなら……」というその場の責任者らしき女性の声がする。私は操作しにくいアゴダのカスタマーサポートとのチャットの指を止める。高らかに私の名前が呼ばれる!!

「ドアの開閉がしにくいお部屋でもよろしければ、禁煙でご案内できます」

「え〜ありがとうございます!すみません〜〜!!!」

やった〜〜〜〜!!!!

受付の女の人は、禁煙の部屋にしてくれただけでなく、お部屋まで案内してくれて、ドアの開け閉めのやり方(強くぐっと押したり、引く)をやって見せてくれさえした。怖い顔で「わかりました」って言ったことを後悔した。喫煙部屋じゃどうやったって寝れないから、絶望していた。うれし〜〜〜〜!!

なぜこのホテルにしたかというと、

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嬉しいお値段の朝ごはんで新潟のお米が食べられるからだった!

テンション上がって受付のお姉さんとエレベーター乗ってるときに言っちゃった。「人気です、おいしいですよ〜!」と返してくれた。

 

さて、空気の美味しいお部屋に荷物を置いて、しっかりドアを閉め、夜の街にくりだす。ひとり旅のときはあまりお酒を飲まない。……もちろん飲むこともある。香川に行ったときは飲みすぎて知らない人の家で有名らしいバンドのドラムの人とかと宅飲みをした、あれも楽しかったけど。今の私には明日の朝食が控えているのだ。飲んでいられるか。

しかし新潟の夜の街は、キャッチが多い。あんまり治安のいい感じがしない。ホストらしき人たちも客引きのためにたくさん外に出ていて、道を軽く塞いでいたりした。「〇〇くんと△△くんの連絡先知らないっすわあ」と聞こえる、その〇〇も△△も忘れたけど豪奢な名前で笑ってしまった。

これはかなり新潟駅の目の前。路地に入るとキャッチが多い。

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あと、ぜんぜん火曜日なのにふつうに満員の居酒屋がある。さすが酒どころ。

地方に行くと、意外なほど夜が賑やかでびっくりすることがある。印象に残ってるのは、札幌と那覇。どのお店も煌々と灯りが入り、女の子たちが露出しているのが見えたり、道に出したテーブルが埋まっていたり。大阪なんて元気ない方ちゃうんと思った。地元の奈良なんて地方なのに言わずもがな、夜も8時を過ぎるとどんなお店も灯りを落とす。単純に活気がなく見えるし、寂しい。やっぱり夜が元気な町ってテンション上がるよなあ。

しかし明日の朝にメインを持ってきている私は、駅前のサイゼリヤに行くか逡巡してからホテルの最寄りのファミマに入った。サラダとビーフンを買う。「地のもの」と「たらふく食べる」は明日にお預けだ。

ホテルに帰って見つけたペイチャンネルの販売機。

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この、すべての装飾を削ぎ落とした、シンプルかつシンプルであることによって完璧であるフォルム。その意味をわかる人にしかわからないモノクロの販売機は禁欲的ですらある。全方向の人に配慮したこれはSDGsに則ったデザインだ。拍手。

 

シャワーを浴びてベッドに入り、テレビを点けるとチャンネルが5つくらいしかなかった。当然、阪神対横浜の試合なんて放映していない。この辺の人ってどこのチーム応援すんのかな。楽天

ここでようやく、明日からの未定の予定を考え始める。新潟がよければ延泊しようと思っていたが、とくにやりたいこともない。金沢にひとりで行ったときも色々タイミングが合わなくて思ったが、私は北陸とはあまりウマが合わないようだ。また雪のシーズンにでも誰かと来よう。

さてじゃあ次はどこまで行こうか。Googleマップを開く。とりあえず北上するとして、目に留まる地名は、村上・酒田・にかほ……。その上に行くともう秋田だ。

なにもない町って好きなので、3つのどれかに行こうとピンチインするが、どうにもホテルがない。ひとり旅の個人的な難点として、私は旅館にひとりで泊まれない。旅館というのは、ただ泊まるだけじゃなく料理や浴衣や温泉を楽しむ場所で、それっていうのはひとりより断然誰かと経験する方が楽しいからだ。晩ご飯に豪勢なお部屋食を用意してもらったとして、それを誰と共有しよう。ひとりぽっちの食卓に、お刺身や一人用鍋だけが彩り豊かに並んで手をつけられるのを待っているさまは私にはまだ少し悲しい。歳を重ねれば楽しめるようになるのかもしれないが。

なので思い切ってもう秋田までびゅんと行くことにした。特急いなほ、14:49発。それまで新潟を観光しよう。

 

今回の旅のお供、イアン・リード著『もっと遠くへ行こう。』を少し読んで(夫婦の暮らす田舎の一軒家に突然来訪者が現れるところから始まる不穏なミステリー)、朝ごはんに胸を膨らませてお腹を鳴らしながら眠りについた。